大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和36年(ヨ)70号 判決

申請人 国鉄労働組合 外二名

被申請人 日本国有鉄道

主文

申請人国鉄労働組合の本件申請を却下する。

被申請人が昭和三十六年三月二十五日付で申請人中山昭、同松野良人に対してなした各停職の意思表示の効力は本案判決に至る迄仮にこれを停止する。

訴訟費用中申請人国鉄労働組合と被申請人間に生じた分は、同申請人の負担とし、その余は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人等代理人は主文第二項同旨の判決を求め、申請の理由及び被申請人の主張事実に対する答弁として、次の通り陳述した。

(一)  被申請人日本国有鉄道は日本国有鉄道法によつて設立された法人であつて、同法に基き鉄道運送事業等を経営するものであり、申請人国鉄労働組合は国鉄職員をもつて組織された法人格を有する労働組合であつて、申請人中山、同松野の両名はいづれも右国鉄労組に属する国鉄職員で熊本駅操車掛員として同駅に勤務し駅構内で列車及び車輌の置替等の作業に従事していたものである。

被申請人は、「申請人両名が昭和三十六年三月三日午後六時二十分から翌三月四日午前二時迄の間に、熊本駅下り操車詰所で勤務時間内に行われた違法な職場集会に参加して、熊本駅長河村芳人等の再三にわたる就業命令に従わず申請人中山昭は担務であつた第五二六気動車の分解作業並に第一四七列車の入換作業に従事せず又申請人松野良人は第一五七三列車の入換作業に従事しなかつた」との理由で、昭和三十六年三月二十五日付で申請人両名を停職三月に処する旨の意思表示をした。

(二)  然しながら申請人両名には被申請人の主張する如き懲戒処分に該当する所為はなく、右の停職処分は以下述べるとおりの理由により無効である。即ち

(イ)  被申請人主張の停職処分の理由中、昭和三十六年三月三日午後六時二十分頃から翌三月四日午前二時迄の間に、熊本駅下り操車詰所で、組合幹部と熊本駅幹部との間で構内照明問題に関して交渉が行われたこと、申請人中山、同松野両名が交渉の行われている右詰所に居合せていたことがあること、並に作業ダイヤによつて予め割当られた作業のうち申請人中山において第一四七列車の、同松野において第一五七三列車の各発機関車を誘導する作業を行わなかつたこと、及び同夜同駅で列車の発着遅延並に一部運転休止が生じたことは認めるがその他被申請人の主張する事実はすべてこれを争う。申請人両名はいずれも前記交渉には全然関与せず、両名が詰所で待機している間、詰所内で行われていた交渉を見ていたに過ぎない。又両名は就業命令を受けたこともない。以下申請人中山、同松野の両名が前記交渉の行われた時間中に勤務に従事した実態、及び前記各誘導作業を行わなかつた理由を詳述すれば次の通りである。

(ロ)  先ず申請人中山昭は作業ダイヤに則り、三日午後六時から同六時三十分までの間、下り操車詰所で休憩し、午後六時三十分から同六時四十分迄は直ちに作業に就き得る態勢で同詰所で待機し、午後六時四十分、第八六三列車へ赴き同列車から分離された着機関車を熊本機関区まで誘導したのち、午後六時五十五分、下り操車詰所へ戻り、同時刻から同七時二十五分まで同詰所で待機した。問題の五二六列車の分解作業については午後七時二十五分、同詰所で連結手松本生信に対し、平常通り同列車を分解するよう指示を与え、同人を同詰所より出動させ、午後七時三十六分頃同詰所に復帰した同連結手より第五二六気動車を指示通りに分解した旨の報告を受けて、同時刻迄に右気動車の分解作業を完了した。同時刻から同十時二十分迄は同所で待機し、同十時二十分から翌三月四日午前二時二十分迄の間は同詰所隣の部屋で睡眠した。

被申請人は第五二六気動車の分解作業は西助役が福田操車掛と宮部連結手に行わせたと主張するが、事実に反する。申請人中山が下り操車詰所で第五二六気動車の分解を指示しただけで、作業現場へ出動しなかつたのは、その分解作業が簡単なもので、従前から操車掛は現場に赴くことなく、担当連結手に作業の指示を与えて行わせる慣例であつたので、平常通りの例に従い指示を下したのであつて、何ら責められるべき事柄ではない。

次に同申請人が第一四七列車の発機関車を誘導しなかつた経緯につき、作業ダイヤによると、同申請人は三月三日午後九時四十分から同九時五十四分迄の間に右誘導作業を行う予定であつたところ、同申請人の割当睡眠時間が同日午後十時二十分より始まつたのに対し、右列車が遅延して、睡眠時間中である同日午後十時四十一分に到着したため、同列車の発機関車を誘導する作業は、交替勤務中の掛員によつて行われたので、同申請人がこれを遂行する必要のなかつたものである。かかる場合に被申請人主張の如く、本来の担務者が睡眠時間内であつても延着列車の機関車を誘導したり、或いは前もつて上司に作業変更の指令を求めなければならないという如き義務はなく、またそのような慣行も存在しない。

(ハ)  申請人松野良人は所定の作業ダイヤに従い、三月三日午後六時十分から同六時四十分迄は休憩し、午後六時四十分から同六時四十七分迄は、下り操車詰所で作業に就き得る態勢で待機し、午後六時四十七分問題の第一五七三列車牽引予定の発機関車を、同列車まで誘導する作業を行うため、下り操車詰所を出たところ、同列車が所定の豊肥一番線に配置されてないことを認めたので、所定地点で待機中の右機関車の手前、約二十米の地点まで赴き、乗務機関手に対し右列車が豊肥一番線へ据付けられるまで暫時、待機するように大声で連絡したのち、午後六時五十二分、下り操車詰所へ引返し、同詰所で第一五七三列車が豊肥一番線へ配置されるのを待つているうち、午後七時二十分頃、熊本鉄道管理局より同列車の運転休止指令が出された旨の伝達を受けて右機関車の誘導も当然に休止となつたことを了解し、同時刻より午後七時三十分まで同詰所で待機し、午後七時三十分から同八時まで休憩し、午後八時から同八時十五分まで下り操車詰所で待機し、午後八時十五分、第一四五列車に赴き、同列車より分離された着機関車を熊本機関区の入区線まで誘導したのち、午後八時五十分頃、下り操車詰所へ戻り、同時刻から午後九時まで同詰所で待機し、午後九時より翌三月四日午前一時まで同詰所隣の寝室で睡眠をとり、午前一時起床し、同時刻より午前一時十分迄の間に、下り操車詰所で作業準備を整え、午前一時十分から同一時二十分迄に同詰所で勤務交替の引継を受け、午前一時二十分より同二時までの間は、同詰所で待機した。

右のとおり同申請人が第一五七三列車の発機関車を誘導しなかつたのは、作業手続上右列車は構内の貨物四番線で車輌編成されたうえ、午後六時五十分迄には豊肥一番線へ置換えられていることになつているので、該発機関車を誘導するのを担務とする同申請人としては、同時刻に、所定地点で待機中の発機関車へ赴き、これを豊肥一番線の第一五七三列車へ誘導したうえ、同列車に連結された該機関車を更に誘導して、これを発車線である下り一番線へ引直す作業を行うものであつたのに、前述の如く当日は所定の午後六時五十分になつても同列車が所定の豊肥一番線に配置されてなく、発機関車を誘導できる段階に達してなかつたからである。その際、同列車が被申請人主張の如く貨物四番線で列車編成を完了したままの状態に配置されていたことは認めるが、これを同所から豊肥一番線へ置換える作業は入換と称されて専用の入換機関車が使用されており、かつ同夜、入換機関車を誘導して同列車を入換える作業は同申請人の担務でなかつた。またかかる場合に被申請人主張の如く、上司に対して作業変更の指令を求めなければならない義務はなく、また発機関車を誘導して列車を貨物四番線より所定発車線である下り一番線へ引直した事例も存在しない。仮に同申請人において第一五七三列車の発機関車を誘導して、同列車を貨物四番線より下り一番線へ転線させる義務があつたとしても、当時、貨物四番線上には第一五七三列車の前後に多数の他の車輌が放置されたままになつていたから、同列車を引き出すことは到底不可能であつた。そこで、いずれにしても第一五七三列車が運転休止になつたこと及びこれによつて第一五七四列車が必然的に運転休止にされたとしても、それらは申請人松野良人の行為とは全く関係のない事柄であつて、これを懲戒事由とすることは甚はだ不当である。

(ニ)  申請人中山、同松野の両名は、前述の如く下り操車詰所で作業を待機していたのであるが、被申請人は申請人両名が同詰所に居合わせた事実をもつて、両名が同詰所で開催されていた職場集会に参加したと速断し、業務命令に従わず作業を放棄したと主張するけれども、両名は当然待機すべき場所で待機していたにすぎず、また勤務時間内に到来した担務作業は前叙の如くすべて完遂したのであるから、停職事由に示された如き、職場集会に参加して作業を放棄したり、或いは他の参加者と意思を通じて、作業を拒否することに加担し又は助勢したと認められるべき事実は全く存しない。

以上によつて明かなとおり申請人中山、同松野には日本国有鉄道法第三十一条第一項第一号後段、日本国有鉄道就業規則第四条第一項、第六十六条第二号、第三号、第六号、第十五号に該当する事実はない、仮に右に該当する何らかの事実があつたとしてもこれに対し停職三ケ月の重い懲戒処分をしたのは懲戒の裁量を誤り懲戒権を濫用したものとしてその違法の程度は大きいので何れにしても申請人中山、松野に対する本件停職処分は無効たるを免かれない。

(三)  申請人両名は、いずれも被申請人から支給される賃金のみで生活を維持しているものであり申請人中山はこれにより妻子三名を又申請人松野は妻子四名を夫々扶養しておるものであるが、停職処分に付されたことにより、その期間中は賃金の三分の一のみを支給されるにすぎないこととなり自己及び家族の生活に重大な脅威を受けることになつた。

そこで申請人等は被申請人を相手として停職処分無効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、その判決を待つたのでは回復することのできない損害を蒙むる恐れがあるので、本件仮処分の申請に及んだものである。

(四)  被申請人の本案前の抗弁につき、申請人中山、同松野と被申請人との間には私法上の雇傭関係が存在しており同申請人らに対する本件停職処分は行政事件訴訟特例法にいう行政処分には当らないのでこれに関する争に民事訴訟の適用があることは勿論であるから、本件仮処分の申請は適法である。又申請人組合は組合員の生活と地位の向上を計ることを目的とし組合員の労働条件を維持改善することを任務とするから、組合員である申請人中山、同松野に対する本件停職処分の無効確認を求める訴を提起することは、組合の本質的行為であると解されるのみでなく、国鉄労働組合規約第二十四条の二は「組合は組合員と国鉄当局との間の訴訟その他一切の裁判上の係争につき、組合員の利益擁護のために組合の名において国鉄当局に対し、その組合員の権利を行使することができる」と規定しておるので、申請人組合は組合員である申請人中山、同松野両名のために停職処分の無効確認を求める当事者適格を有しておる。(疎明省略)

被申請代理人は「申請人等の申請を却下する。訴訟費用は申請人等の負担とする」との判決を求め、答弁並に主張として次の通り陳述した。

第一、本案前の抗弁

(一)  本仮処分申請は公法上の権利関係に関するものであるから行政事件訴訟特例法第十条第七項により許されない。

被申請人国鉄は従前は純然たる国家行政機関によつて運営されてきた国有鉄道等の事業を引継ぎ、これを能率的に運営することにより、公共の福祉を増進することを目的として設立された公法人であつてその資本金は全額政府の出資にかゝり制度上及び経営上、直接政府の強力な統制に服している。また国鉄職員は法令により公務に従事する者とみなされ職務の遂行にあたつては誠実に法令及び業務規定に従い、全力を挙げて職務の遂行に専念しなければならず又労働者災害補償保険法の適用については国鉄の事業は国の直営事業とみなされ、失業保険法の関係に於ては国鉄役職員は国に使用するものとみなされ、その他降職免職休職懲戒等の諸規定上から見ても国鉄職員の身分はなお種々の点において公務員的取扱を受け従つて公法的側面を有している。更に公労法第十七条によれば国鉄職員は一切の争議行為を禁止され、同法第十八条はこれに違反した者は解雇されると規定されており、これらは国鉄職員が特別権力関係に服していることを証明している。

本件停職処分は、かかる特別権力関係に基き、行政庁としての性格を有する国鉄総裁が国鉄法第三十一条に則つてなした行政処分であるのに、申請人等の申請は民事訴訟法の規定する仮処分を求めるものであるから、行政事件訴訟特例法第十条第七項の規定により許されない。

(二)  右の主張が理由がないとしても申請人らのうち国鉄労働組合の申請は当事者適格を有しないから許されない。

本件仮処分申請は申請人中山、同松野に対する停職無効の訴を本案訴訟とするものであるところ、その訴は申請人両名と被申請人との間で雇用に基く法律関係の確認を求めるものに外ならないのに、申請人組合は該法律関係における当事者ではなく、その法律関係につき何等の処分ないし管理の権限を有しないから、右本訴を遂行する適格を有しない。従つて本件仮処分申請についても当事者となる適格を有しない。

申請人等主張の如く国鉄労働組合規約第二十四条の二には、組合は国鉄と組合員との間の訴訟その他一切の裁判上の係争につき、組合の名で組合員の権利を行使し得る旨の規定があることは認めるが、停職処分というようなことは組合員全体に均等に起る問題ではなく、組合員の利益擁護といつても事案によつて内容は異るものでこのように将来予測のできないような権利又は法律上の利益について組合が予め管理処分権を取得する旨を定めた右の規約は、組合員に対する不安定かつ不平等な拘束力を是認する不当なもので無効と解するほかなく、従つて右の規約の存在をもつて申請人組合が本件仮処分申請において当事者適格を有する根拠とすることはできない。

第二、本案に対する答弁事実

申請人等の主張事実中申請人等と被申請人との各身分関係並に被申請人が申請人主張の日、申請人中山同松野両名をその主張の理由に基き各停職三月の懲戒処分に付したことは認めるが、右処分が違法無効であると主張する事実関係はこれを争う。右処分は以下述べる理由により正当なものである。

(一)  申請人両名は昭和三十六年三月三日午後六時二十分頃から翌三月四日午前二時まで熊本駅下り操車詰所で開催された構内照明問題に関する違法な勤務時間内の職場集会に参加して、他の参集者と相呼応して業務命令に従わなかつた。右職場集会は三月三日の早朝から国鉄労働組合熊本地方本部業務部長山下孝同調査部長野田藤吉等により企画されていたもので、同人等は熊本駅構内の照明燈の増設を要求するためと称して、同夜同構内に於ける貸車の入換作業を行わない実力闘争を実施することを計画していた。このことを知つた河村熊本駅長今藤助役等は同人等に対し右計画を取止め平常通り勤務に服するよう申入れたが応諾なく、同日午後六時二十分頃から右両名を含む組合役員数名の外、申請人中山同松野等の操車掛、転てつ手連結手等二十数名が集合し下り操車詰所で集会を開いて勤務につかず、照明灯増設等に関する要求が容れられる迄同夜の貨車の入換を行わない態勢を固めるに至つた。そこで同駅の駅長、助役等は同日午後七時二十分頃より同八時十五分頃迄の間に、再三にわたつて下り操車詰所へ赴き参集者に対して、直ちに所定の業務に就くよう厳命したが、翌三月四日午前二時頃迄は就業拒否の状態が続けられ、その結果、熊本駅における発着列車の車輌入換作業が一部停止されたため貨物列車十七本が運転休止となつたほか旅客列車七本及び貨物列車十三本が十三分ないし八時間十三分遅延して、当日の運送業務は大混乱に陥つた。

右の職場集会に申請人中山は三時間四十分、同松野は二時間三十分にわたつて参加しており、その間に以下述べるとおり作業を放棄したものであつて、単に休憩又は待機時間中に組合幹部と当局との交渉を傍観していたというような状況でなかつたことは明白な事実である。

(二)  申請人中山は右のとおり職場集会に参加したことにより第五二六気動車の分解作業並に第一四七列車の発機関車を誘導する作業を行わなかつた。

まず第五二六気動車は定時の午後七時二十五分に到着したから、申請人中山は作業ダイヤに従い同時刻、右気動車に赴きこれを出水行気動車と三角行気動車に分離し、各所定位置に据え付けさせる作業を、同日午後七時五十四分迄に完了すべき職務を負担していたのに、同申請人が右の作業を放棄したことから、第五二六気動車は所定時刻になつても分解されておらなかつたので、同駅輸送担当西助役が職場集会に参加せずに勤務中であつた操車掛福田耕民及び連結手宮部正義に命じ申請人中山に代り右第五二六気動車を所定の如く分解させた。

申請人中山は第五二六気動車の分解作業は、同人が松本連結手に命じて所定時間中に完了させたと主張するが、右は全く弁解のために考え出された虚構の事実であるが、仮に主張の如く分解作業を松本にやらせたとしても、自らやるべき仕事をしなかつたという点では同一で作業放棄の責を免れるものではない。次に同申請人は第一四七列車の発機関車誘導作業を行わなかつた。尤も同申請人主張の如く、右の誘導作業は同日午後九時四十分から同九時五十四分迄に行われるべき筈のところ、同列車が遅延して午後十時四十一分に到着したこと及び同申請人の睡眠時間が午後十時二十分より始まることになつていたことは認めるが、かかる場合に担務操車掛たる同申請人としては、慣行通り遅延時刻を予め確認しておいたうえ右作業を完了してのち睡眠をとるか、或いは職務上の規程である熊本駅運転取扱作業内規第四十条に従い、運転掛に対し作業の指示を求め、運送業務に支障を生じさせない処置を講じたのち、睡眠につくべき義務があるに拘らず、同申請人は右いずれの措置も採らなかつた。このことは同申請人が前叙のとおり職務集会に参加し、他の集会参加者と団体行動をとり、右列車の発機誘導作業については列車が遅れようが遅れまいが始めからこれを行う意思のなかつたことを示すものにほかならない。尤も駅当局としてはその際同申請人に作業指令を出すべきであつたが、同人等が職場集会に参加して既に再三にわたつて発せられた就業命令を拒否していたので、指令を下し得ず、ために西助役が操車掛代務予備構内手杉本運喜等に命じて、右発機関車を誘導させて急場をしのいだ。元来同列車が所定の時刻より遅れて熊本駅構内に入つたのは申請人の参加した団体行動の結果であり同申請人としても遅れにつき共同責任があるに拘らず、睡眠時間中であつたとの理由で任務に就かなかつたことは単なる口実に過ぎず同申請人の行為を正当づけるものではない。

(三) 申請人松野良人は第一五七三列車の発機関車誘導をしなかつた。右誘導作業は正常な運転ダイヤが行われている際には、申請人等主張の如く、午後六時五十分豊肥一番線に配置済の第一五七三列車へ発機関車を誘導し、更にこれを出発線である下り一番線へ引直すものであること並に同列車を貨物四番線から豊肥一番線に入換する作業がこれに含まれないこと並に当時同列車が豊肥一番線に配置されていなかつたことは認める。然しながら当時同列車は貨物四番線で車輌編成を完了し、何時でも発機関車をもつて同線より引出し得る状態になつており、また同申請人の自認する如く同列車の発機関車は既に機関区より出て所定位置で待機中であつたから、かかる場合には従来も発機関車を誘導して、列車を貨物四番線から引出して下り一番線へ据えつけた事例があつたので、申請人松野良人としては右事例に倣つて誘導を行うか、或は熊本駅運転取扱作業内規第四十条に則つて、上司に作業の指令を求めるべき義務があるに拘らず、同申請人は右いずれの措置も採らなかつた。尤も駅当局としても同申請人に対し応急の作業指令を下すべきであつたが、職場集会のため同申請人に命令したくとも命令するに由なき実情であつたため遂に指令を出し得ず、その結果、第一五七三列車は運転休止のやむなきに至り、当然の結果として三角駅発第一五七四列車も運転取止めとなつた。これを要するに申請人松野がその義務を尽し自らの判断により発機の誘導に当り列車を貨物四番線から下り一番線に据え付ける作業を行うか、或は運転掛の指示を求めて同一の処置を行うかすれば右両列車の運休は避け得られたもので、列車が豊肥一番線に居なかつたことや四番線から引出せなかつたことを以て弁解の資とする申請人の主張は、前にも述べたとおりそれらの事態そのものが職場集会作業拒否という団体行動の結果から惹起されたもので申請人松野もその団体行動の一員であつたことにかんがみ首肯できない。

以上により申請人中山、同松野の両名が勤務時間内の職場集会に参加して業務命令に従がわず、集団行動による勤務拒否に加担して、担務作業を放棄し、運転業務に多大の障害を与えたことは明白であり、両名の右所為は、いずれも国鉄法第三十一条第一項第一号後段、日本国有鉄道就業規則第四条第一項第六十六条第二号第三号第六号第十五号に該当するので、被申請人が申請人両名を停職三月に付したのは正当であつて右処分には何らの無効事由はない。

(四) 次に本件仮処分申請にはその必要性がない。申請人中山、同松野の両名が停職期間中、被申請人より賃金の三分の一のみを支給されることは認めるが、両名は国鉄労働組合の救済規則により、同組合から停職による減給相当額の金員を救済金として受領しており、右救済金は停職処分の当否が訴訟によつて確定するまで返済する必要のないものとされているから、本停職に付されたことにより生活の難渋その他の著しい損害を受ける虞は全くなく、仮処分を求める必要性がない。

そこで本件仮処分申請は、いずれにしても失当であるから却下さるべきである。(疎明省略)

理由

第一、本件停職処分に関し民事訴訟法仮処分の規定が適用されるか否か。

日本国有鉄道は従来国の経営してきた鉄道事業等を承継し、公共の福祉を増進することを目的として設立された公法人であつてその事業の性質からみて、国の行政事務を担当することを本来の任務とする国の行政機関に属しないことは明らかである。このことからしても国鉄とその職員間の勤務関係は、国の行政機関を構成する国家公務員の国に対する関係と同一に論ずることはできず、又公労法第八条は国鉄職員に関する勤務関係につきその組織する労働組合が相当広汎な範囲の事項につき使用者である国鉄と団体交渉をなしうることを定めて、国鉄職員が国鉄と対等の立場でその具体的な運用基準等を交渉し協約を結ぶことを認めており、且つ紛争解決の為に調停又は仲裁の制度があり、これらは何れも一般私企業における労使紛争の解決方法として認められている調停、仲裁制度と近似しており、かかる対等の立場における紛争解決の方法をもたず専ら法律または人事院規則の定めるところに一任されている国家公務員とは、その勤務関係において著しい性質上の差異を認めることができる。尤も国鉄法第三十四条第一項には国鉄職員は法令により公務に従事するものとみなすとの規定があるが、その趣旨は刑罰法規の適用及び職務の執行関係について国鉄職員を公務員とみなすという意味であることは従来より疑義のないところとされており、また国鉄法第六十条以下には労働者災害補償保険法その他一定の法令の適用又は準用上「国鉄職員を国に使用されるものとみなす」等の規定があるが、これらはいずれも国鉄が国から国有鉄道事業を引継いた後においても、引継ぎこれらの他の法令を国鉄又は国鉄職員に適用することができるようにする為の便宜的技術的措置として設けられた規定であつて、このような規定の存在をもつて、国鉄職員の勤務関係が国家公務員のそれと同様に公法関係であるということはできない。又国鉄の営む事業の公共性はその経営の組織、機構に私企業とは異つた構造を与えていることはいうまでもないが(例えば争議の禁止)、その基底となる原理は全体の統一的秩序を維持するための統制的権力干係ではなく対立当事者の私的自治を認めつつこれを経営の公共的使命に適合するよう秩序づけることを組織の原理としているものといえよう。このように理解するならば国鉄と従業員間の労働干係を公法上の権利干係とするのは妥当ではなく、従つてこれを目的物とする訴訟を行政事件訴訟であるとして、仮処分に関する民事訴訟の適用がないとすることはできない。

第二、申請人組合の当事者適格について。

申請人組合の本件仮処分申請は被申請人が申請人中山、同松野両名に対してなした本件停職処分の無効確認を求める本案訴訟を前提とするところ、本件停職処分は被申請人と右申請人両名との間の雇用関係に基く法律関係であるにすぎないから、申請人組合は該関係につき何等の管理処分権限なく、従つてこれについて訴訟を追行する権能を有しないと解するのが相当である。尤も申請人組合が組合員の労働条件の維持改善を主目的として設立されたものである以上、組合員に対する懲戒処分に重大な利害干係を有することは当然であるが、それだからといつて組合にこの種事案につき当事者となる適格ありということはできない。

次に国鉄労働組合規約第二十四条の二に、組合は組合員と国鉄との間の訴訟その他一切の裁判上の係争につき組合員の利益擁護のために組合の名において国鉄に対し、その組合員の権利を行使することができる旨規定されていることは当事者間に争ないが組合内部に於てはとも角、第三者に対し規範としての拘束力を持たない組合規約により本来具有しない訴訟当事者となりうる資格を一方的に取得し得ないことは勿論である。

そうであるとすれば申請人組合は本件停職無効確認の本案訴訟を提起する権限を有しないというほかなく、従つて本件仮処分申請についても当事者となる適格を具有しないというべきである。よつて申請人組合の仮処分申請は、その余の点につき判断するまでもなく不適法として却下を免れない。

第三、申請人中山、同松野の本案に関する判断。

申請人中山、同松野と被申請人間の身分干係並に右申請人両名がその主張の日、その主張の理由により停職三ケ月の懲戒処分に付されたことは当事者間に争がない。

(一)  被申請人主張の職場集会の実態

成立に争のない乙第一ないし第三第六第二十二号証、証人河村芳人の証言によつて真正に成立したと認められる乙第四号証、及び証人河村芳人同西孝道の各証言を綜合すると昭和三十六年三月三日国鉄労働組合熊本地方本部業務部長山下孝及び同熊本支部熊本駅連区分会長安永寿男等の組合役員数名が、午前九時頃より熊本駅長及び同駅助役等に対し、熊本駅構内の夜間照明が労働基準法所定の光度に達しないことを理由に早急に善処方を求め、右要求が容れられる迄は同夜同駅構内における列車の入換作業等に従事し得ない旨を予告したうえで、同日午後六時二十分頃より、前記山下孝、同安永寿男ほか同組合熊本支部書記長中本次夫、同支部執行委員奥村照義等の組合役員数名及び構内運転関係の勤務者の内約二十名が集合し、再三にわたつて駅長及び助役等を同詰所へ呼出して、同人等に対し熊本駅構内の照明灯を増設する旨の確約をするよう要求したが、同人等から権限外の事項であるとして確答を与えられなかつた。そこで参集者は組合役員の指示に従つて勤務作業に従事することを拒否する態勢に出たので、駅長及び助役等が再三にわたり、集つている勤務者に対し直ちに職務に復帰するように口頭で命令を繰返したが、聞き入れられなかつたので駅長は同日午後八時四十五分頃と翌三月四日午前一時頃の二回にわたり、助役に命じて業務命令書を参集者に手渡させようとしたが、これらも組合役員の阻止にあつて交付できなかつた。三月三日午後十一時十五分頃には駅長において右組合役員の業務妨害を排除するため、公安職員約二十名の出動を要請した程であつたが、組合側より穏便な交渉を要望してきたので、公安職員が実動するに至らないまま、三月四日午前二時頃、熊本鉄道管理局の関係課長を含めた労使間の交渉が始められるに及んで、右集会も解散し参加勤務者は業務に復帰したが、当夜の勤務者中右集会に参加した者が担当作業を拒否したことにより、熊本駅における列車及び車輛の入換作業等が大幅に遅滞し、このため同駅を中心として貨物列車十七本が運転休止となり、旅客列車七本及び貨物列車十三本が十三分ないし八時間十三分遅延したことが疎明される。証人渡辺三徳、同松本生信の証言中には、前記交渉に当つたのは数名の組合幹部だけであつて当夜の勤務者は全員同詰所で単に休憩あるいは待機をしていたのみで右集会へ参加しなかつた旨の供述があるが、右証言部分は前示各疎明資料と比照して到底信用できない。尤も右両証人の証言(前記措信しない部分を除く)に本件弁論の全趣旨を総合すれば当夜の勤務者中職場集会に参加した者はその全員ではなく、すくなくともその一部の者は集会の開かれていた操車詰所に待機又は休憩していながら集会に積極的に参加せず単にその成り行きを傍観していたことが窺われる。

そこで以下申請人中山同松野の両名が被申請人主張の如く職場集会に参加してその職場を放棄したか否かにつき考えてみる。

(二)  申請人中山昭干係

(イ)  第五二六気動車の分解作業が当夜申請人中山の担当業務であつたことは当事者間に争ないところ被申請人は申請人中山が前記職場集会に参加した結果、右業務を放棄したので西助役が福田操車掛と宮部連結手に命じて分解作業を完了させたと主張し、証人西孝道の証言によつて真正に成立したと認められる乙第五号証及び証人西孝道、同米村敬喜の各証言中には、これに副う部分が存在するけれども、右書証の記載内容並に各証言は後記の証拠と対比し信用できない。却て証人森秀吉の証言により真正に成立したと一応認められる甲第九号証及び証人宮部正義同松本生信の各証言、申請人中山昭本人の供述を綜合すると、被申請人が第五二六気動車を分解させたと主張する福田操車掛及び宮部連結手は、両名とも西助役より被申請人主張の如き命令を受けたことはなく、従つて申請人中山に代り同人の業務を代行した事実のないこと並に第五二六気動車の分解作業は、申請人中山の主張する如く、同申請人が松本連結手に命じてこれを行わせたことが一応認定でき、他に右認定を左右する資料はない。被申請人は更に、仮に右の事実が認められたとしても、申請人中山は操車掛として第五二六気動車を分解するのに作業の現場に出動せず、松本連結手に操車掛の行うべき職務を代行させた点で作業放棄をしたことに変りはないと主張し、成立に争のない乙第十七第二十号証によると、職務上操車掛と連結手とはその作業が明確に区別されているけれども、証人松本生信の証言及び申請人中山昭の本人尋問の結果によると、第五二六気動車の分解作業は至極簡単なものであることから、通常担務操車掛は現場に赴くことなく、担当の連結手に口頭指示を与えて、これを行わせていることが一応認められ、成立に争のない乙第二十二号証中に右の認定に反する記載があるけれども、同記載は右の認定を覆すに足るものでなく、他に右の認定を妨げる資料はない。そうすると申請人中山昭が平素のとおり自ら現場に赴かず単に松本生信に指示して列車の分解作業を行わせたことは、いさゝか業務に忠実でなかつたといえないこともないが右行為を以て懲戒事由にすることは当らない。

(ロ)  次に第一四七列車の発機関車誘導については、申請人中山昭が作業ダイヤにより午後九時四十分から同九時五十四分までの間に該誘導をする予定になつていたこと及び同人の割当睡眠時間が午後十時二十分より始まつたのに対し、第一四七列車が遅延して午後十時四十一分に到着したこと、並に同申請人が右誘導をしなかつたことは当事者間に争がない。

被申請人はかかる場合に、担務操車掛であつた同申請人としては熊本駅運転取扱作業内規第四十条に従い、運転掛に作業変更の指令を求めるか、或は指令を受けるまでもなく、睡眠時間に二十分程度喰込む遅延であれば、該作業を完了してから睡眠に就く慣行であるから、本件の場合も右何れかによるべき義務があつたと主張するので考えてみる。成立に争のない乙第十二号証によると熊本駅運転取扱作業内規第四十条には、列車が遅延し又は遅延する虞があるときは操車掛は運転掛の指令を受けるとの規定があること、及び同規定が業務上遵守すべき義務を定めたものであることは明白であるが、乙第二十号証によると運転掛は操車掛の直接指揮者で、作業ダイヤの運行状況を逐一迅速に確認できる立場にあることが認められるので作業内規第四十条中「操車掛は運転掛の指令を受ける」との意味は運転掛より発せられた指令に操車掛が服従する義務があることを規定したにとどまり、操車掛より進んで指令を求めるべき義務があることまでも規定したものとは考え難い。証人西孝道の証言中に被申請人の主張に副う部分があるが右証言も仔細に検討すれば、かゝる場合に処すべき職員の心得を強調したもので、指令を求めないことが直ちに職務放棄となる旨を表現したものではないと解するのが相当である。証人森秀吉、同渡辺三徳の各証言及び申請人中山昭の本人尋問の結果によると、従来かかる場合に操車掛において進んで指令を求めた事例は存在せず所定の時刻になれば睡眠していたことが認められることも、積極的に指令を求める義務のないことの裏付けといえよう。尤も被申請人主張の如く当時の状況の下では運転掛において、操車掛に対し変更された作業指令を伝達することが困難であつたことも想像され、かゝる異常の事態に於ては操車掛が睡眠時間を延して所定の任務を遂行するとか或は進んで運転掛の指示を求めるということが望ましいことであることは勿論であるがそれをしなかつたことが直ちに作業内規第四十条違反とは云えないであろう。従つて本件につき申請人中山が睡眠に就くに先立ち上司の指令を求めなかつたことをもつて職務を放棄したと解するのは妥当でない。

(三)  申請人松野良人干係

被申請人に於て申請人松野が当夜担当業務を放棄したと主張する第一五七三列車の発機関車の誘導作業は通常機関区より出て所定地点で待機している機関車を豊肥一番線に配置済の同列車へ誘導したうえ、同列車に連結された該機関車を更に誘導して、同列車を出発線である下り一番線へ引直す作業であること、しかるに本件当日は、右の誘導作業を開始すべき所定の午後六時五十分頃になつても、同列車が貨物四番線で車輛の編成を完了したままの状態に配置されていて、豊肥一番線へ入換えられてなかつたこと、しかし同列車の発機関車は既に機関区を出た所定位置で待機していたこと、及び申請人松野が前記誘導作業をしなかつたことは当事者間に争がないい。そこで申請人松野が右誘導作業をしなかつた事情を考えてみる。証人渡辺三徳の証言、並に申請人松野良人の本人尋問の結果によると、同申請人は所定の時刻に第一五七三列車の発機関車を誘導するため、下り操車詰所を出たところ、同列車が所定の豊肥一番線へ入換えられてなく、貨物四番線に配置されたままの状態であることを認めたので、所定地点で停車中の発機関車の手前、約二十米の地点まで赴き、乗務機関手に対して同列車が豊肥一番線へ入換えられるまで、暫く待機するように大声で連絡したのち、下り操車詰所へ引返し、同詰所で同列車が豊肥一番線へ入換えられるのを待つていたところ、右列車の運転休止指令が伝達されて、同列車の発機関車誘導も当然に取止めとなつたことが疎明される。証人米村敬喜同吉岡寅男同西孝道の各証言中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右すべき資料はない。

被申請人はかかる場合、操車掛である同申請人としては熊本駅運転取扱作業内規第四十条に従い、上司に対し作業手続を変更すべき指令を求めるか、或は従前よりかかる場合に発機関車をもつて列車を貨物四番線から引出して、出発線である下り一番線へ引直した事例があるから、これに依つて機関車の誘導を行うべき義務があつたと主張するので更にこの点につき考えてみる。

まず上司に指令を求める義務については、証人米村敬喜の証言中に、かかる場合は運転掛の指令を求めるべきであるとの供述があるほか、前示乙第十二号証によると、業務上の遵守規則であることの明白な熊本駅運転取扱作業内規第四十条には、定例の入換作業が出来ないときは操車掛は運転掛の指令を受けるとの規定があることが認められるが、その趣旨は申請人中山の場合に付き説明したところと同一理由によりかかる場合操車掛から運転掛に対し進んで指令を求めなければならない義務があることを定めたものではないと考えられる。前記米村敬喜の証言もかゝる事態に処すべき操車掛の心得を述べたに過ぎないと解するのが相当で証人渡辺三徳の証言及び申請人松野良人の本人尋問の結果によつても指令を求める慣行は存在しないことが窺われる。尤も被申請人主張の如く当夜は運転掛において同申請人に対し作業指令を伝達することが困難な情況であつたことも窺われるのでかような場合操車掛が自ら進んで運転掛に作業変更の指示を求めるとか或は通常は自己の担当業務以外である貨物四番線からの引出し作業をすることも時と場合によつては好ましいことに相違なかろうが、然しそれをしないことが義務違反であると認めうる資料はない。従つて申請人松野が当夜一五七三列車の誘導作業を事実上しなかつたことを目して同人が違法に職場を放棄したものと看做すことは本件に現われている資料の程度では到底できない。

(四)  尤も以上の認定は申請人中山、同松野の両名が冒頭に説明した本件職場集会に積極的に参加していなかつたことを前提とするもので、若し同申請人等が右集会に参加し他の参加者と意思を通じて冒頭説示の列車運休、遅延に加担したとするならば、申請人中山が一四七列車、申請人松野が一五七三列車の発機誘導をしなかつたことにつきたとえ前認定のような事情があつたにせよ、左様な事態に立ち至らせたことにつき他の共同謀議者と同様責任が無いとはいえないので、最後に申請人両名が同夜の職場集会に参加し列車の運休遅延に加担したと認められるか否かにつき考えてみる。

当夜下り操車詰所で開催された職場集会には組合役員の外相当多数の勤務担当職員が、勤務時間中であるに拘らず、業務命令を無視して之に参加し作業を放棄し、そのため運送業務に相当の障害を与えたことは既に判断した通りであり、また下り操車詰所が運転関係の勤務者において休憩及び作業待機に使用する場所で当時申請人両名も同所に居合せたことは右両名の自認するところである。

然しながら下り操車詰所が申請人両名等の休憩及び作業待機に使用される場所でしかも申請人中山昭の供述により明かなとおり当夜は雨天であつたので当時職場集会が開催されていたとしても、同人等が休憩及び待機を行うために同詰所に居合わすこと自体を非難することはできない。尤も成立に争のない乙第二十二号証の記載や証人西孝道の証言中には申請人中山、同松野の両名が職場集会に参加していたことを首肯させる部分が存在するけれども、右資料だけでは両名が果して職場集会に積極的に参加したものか否か、又そうだとして果してどのような役割を演じたのか当裁判所の心証を引くに十分でない。他にこの点に関する被申請人の主張を認めるに足る資料はない。

却て申請人中山、同松野の両名は何れも本人尋問の際本件職場集会に参加した事実のないこと、従つて参加者と意思を通じて作業放棄をした事実のないことを供述しており、これらの供述と申請人両名の当夜の担当業務中前記以外の列車干係については被申請人側から何ら問題にされていないことなど諸般の情況を綜合して判断すれば、申請人中山、同松野の両名が本件職場集会に積極的に参加し他の参加者と意思を通じて列車の運休、遅延に加担したものと認めるに足る疎明はないといわざるを得ない。

果してそうだとすれば、被申請人が申請人中山、同松野の両名に対してなした本件停職の意思表示は、いずれも正当な事由に基くものであるとの疎明がないというほかなく、従つて該意思表示は一応無効であるといわざるを得ない。

(五)  そこで進んで申請人両名に対する仮処分の必要性について判断するに、申請人両名が本件停職処分を受けてその期間中、被申請人より、いずれも賃金の三分の一を支給されるのみであることは当事者間に争がないところ、成立に争のない乙第十三号証、証人森秀吉の証言及び申請人中山昭の本人尋問の結果によつて申請人両名は国鉄労働組合犠牲者救済規則により、現在同組合から救済金として減給相当額の金員を支給されておること並に申請人両名がいずれも停職期間中、出勤を停止されていることが認められる。

そうだとすると申請人両名は従前と大差のない生活資金を受領しているけれども、停職処分が一応にもせよ無効であると認められるに拘らず、出勤を停止され就労を禁止されていることは著しく労働意欲を阻害され、堪え難い精神上の苦痛を受けているものと認めるのを相当とするから、かかる損害を避けるため仮処分をする必要性があるといわなければならない。

以上の次第で申請人組合の申請は不適法であるから却下することとするが、申請人中山、同松野両名の申請は、いずれも理由があるので認容することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 浦野憲雄 村上博己 滝口功)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例